口に入れると「これこれー!!」と心躍ります
アーティスト・和田裕樹 × 田舎そばみゆき 神戸市【表現人のひるげ Vol.2】
兵庫にゆかりがあり、県内外に活躍の場を広げる様々なジャンルの表現人(アーティスト)。「表現人のひるげ」はそんな表現人たちのエネルギーの源でもある「ひるげ」に密着しながら、根底にある思いや活動について聞いてみる連載企画です。
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平面の絵画を中心に様々な表現活動を行う傍ら、全国の飲食店や衣料店の壁面や什器に“表情を加える”施工の仕事を行っているアーティスト、和田裕樹。塗装や左官などの技法を用いて「素材感」「材質感」といったテクスチャーを活かした作品の数々は、唯一無二の存在感を放ちます。
年に一度、神戸・栄町の『GALLERY 301』で個展を行っている和田さん。取材を行ったこの日は個展「鳥田倶楽部」開催の真っ最中。そんな和田さんの昼食に密着しました。
やってきたのは南京町のメイン通りを南に降りたところ、地元客や観光客で賑わう「田舎そば みゆき」。昭和27年創業、南京町が現在のような繁華街ではなく、寄港する外国人のためのバーや飲食店が立ち並んでいた頃から店を構え、時代の変遷を見守ってきたという。
昔ながらの手打ちそばやうどんに加え女性スタッフが考案する新感覚メニューもあり、その数なんと100種類以上。店を営む2代目店主は「お客様に喜んでいただきたい」という一心で多くのメニューを送り出しているそう。その創意工夫は脈々と受け継がれ、かつては「ぼっかけそば」もこのお店から生み出されたのだとか。
この日和田さんが選んだのは「山菜そば」。山菜の香りと、食感が特徴の打ち立てそばとの相性は抜群。カツオやウルメ、サバなどを使用した豊かな香りの出汁がほっと落ち着く味わい。
―和田さんにとってお昼ご飯はどんな存在?
和田裕樹(以下和田):仕事の時は気が張って食べないのですが、休日はちゃんとお昼ご飯をたべます。休日になると神戸や三宮、元町に繰り出すんですが、お気に入りのお店をローテーションしていますね。カツ丼、カレー、そば、中華、洋食のジャンル別で5店舗が候補にあります。その中のそばの枠が「田舎そばみゆき」さん。
―仕事のときはお昼ご飯を食べないんですね、ストイックですね!このお店を知ったきっかけは?
和田:僕の作品を展示させて頂いている『GALLERY 301』のオーナー曽我さんの紹介です。曽我さんは人生の先輩。アートのこと以外に神戸のいいお店もたくさん知ってるので、教えてもらったら絶対行くし、生き方とかもすごく参考にしたい。曽我さんみたいなダンディズム溢れる男になりたいですね。
―人生の先輩が身近にいるって、いいですね。いつもは曾我さんと一緒に食べているんですか?
和田:そうですね、いつもは出前で食べてます。在廊中に「出前とるか?」って言われて、ギャラリーの中で曾我さんと2人でズルズルと音を立てて食べる…ギャラリーって静寂なイメージだけど、そんな空間でそばを食べるのがシュールで好きなんですよね。毎年開催する個展中は“ギャラリーでそば”が僕の定番になりました。口に入れると「これこれー!!」と心躍ります(笑)。
―いつも山菜そばを召し上がるんですか?お気に入りのポイントを教えてください。
和田:だいたい山菜そばです。食感とか味とか、香りもいい。ずっと食べてられるおいしさですね。メニューも豊富で楽しいので、また曽我さんと来たいと思います(笑)。
身も心も満たされたところで、取材当日和田さんが展示を行っていた『GALLERY 301』に場所を変え、さらに話を伺いました。
―美大で絵を学ばれていたということですが、絵を始めるきっかけはなんだったんでしょうか?
和田:中学生の頃、よくキャラものをアレンジして描いたりしていると褒めてくれる人がいて、絵が好きというより、喜んでもらえるなら描こうみたいなスタンスでした。高校時代は音楽やバンド活動にハマって絵からは離れたんですが、大学進学を考えたとき、専門分野に特化した大学に興味があって美大の絵画コースを選択して、絵にまた触れることになりました。
ーそれからずっと作品を造り続けている和田さんですが、表現するにあたって大事にしていることはなんですか?
和田:「かわいい」こと。かわいいというのは「cute」ではなくて、“かわいらしい、愛でてたい”というイメージが近いです。線や形を描く時によく見直すかも。「これかわいいかな~?」と自問自答してます。あとはサビがない曲のような、程よく気持ちのよい中毒感を纏えればなーと思います。
ースタイリッシュな和田さんとのギャップがありますね。現在は壁面や什器に“表情を加える”仕事も行っていますが、その仕事を始められたきっかけは?
和田:美術大学卒業後、奨学金を返済する中で、絵や塗料に関わった仕事をしないと負けた様な気がして「特殊塗装」という業界に入り就職しました。その中で塗料をコテ(左官道具)で塗ったり、モルタルを塗る機会があって、表現のひとつに“左官”が仲間入りしました。
―仕事を通じて感じるやりがいやもおもしろみを教えてください。
和田:“同じ仕上げはない”ってのが基本なので、毎回ワクワクとプレッシャーがあります。どんな仕上がりになるかなーと作った結果、想像を超えた時はキュンとします。あと完成した店舗に客さんとして行って、空間を味わうのも楽しみの一つですね。刺激的な仕事だなーと思います。飽き性の僕にはピッタリだなと。
ー絵画表現との関係性について教えてください。
和田:絵描きが描くときは絵の具が主に使われます。僕は仕事柄、ペンキやモルタル、樹脂など様々な素材に触れる機会があるので、異素材の組み合わせだったり実験をしてみたりと、単純に手札が増えた感覚です。
―毎年『GALLERY 301』で展示されているということですが、展示を始めてどれくらいになりますか?
和田:もう10年以上ですね。大学に在学していて2回生のころ、外部で展示をしようとギャラリーを探していてここに出会いました。いろいろな所へ行ったけど曽我さんが唯一フランクで親しみやすくて…そこからずっとお世話になってます。
ここで話の中に度々登場する、オーナーの曾我さんにも話を伺いました。
ー和田さんとは長いお付き合いだと思いますが、彼の作品の魅力はどんなところでしょうか?
曾我さん:彼の色使いや独自の画風から、心優しいものが表れてる。展示のテーマ上、テイストや素材は変わっているけど、一貫した作家性があると思います。どんな作家でも人が出るから…シャイな面も出てると思うよ(笑)。売れるために作風を変えてしまう作家さんもいるけど、それは惜しいよね。彼はそうではなく、ずっと同じ作風で描いているしこれからもそうあれると思う。これからもっと面白くなる作家さんです。ずっとやり続けてほしいですね。
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―今後の創作活動や仕事はどういう風に行なっていきたい?
和田:近すぎず遠すぎない距離感でながーく続ける。息をするかのようにモノヅクリしてたらいいな、と思います。巷の発明おじさんとか、遊園地などをDIYしてるおじさんとかを幼少期の頃にテレビでみてて「へんなおじさん!」と思ってましたが、僕がそのポジションになるのではないかと(笑)。気持ちの面だと、個人的表現と商業的表現が自分の中でいい棲み分けになればいいなと思います。絶賛試行錯誤中です。
詳細情報
- 店舗
- 田舎そば みゆき
(神戸市中央区栄町通2丁目10-10)
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- 木曜日
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- GALLERY301
(神戸市中央区栄町通1丁目1-9 東方ビル301)
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